Netherlands vs Spain

Netherlands
0:1 a.e.t.
Spain
* Andres INIESTA (116')
Match 64 - Final - 11 July
まさかオランダがこういう手に出るとは思ってもいなかった。このゲーム、オランダはこれまでさんざん自分たちがされてきたことをスペインに対してするという戦術を取った。これまでオランダと対戦するチームの多くは、オランダのテクニカルな攻撃を封じるためにフィジカルな守備で臨んできた(例えばデンマークhttp://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100616)。オランダは相手のフィジカルまかせのフットボールを「美しくない」と非難し、軽蔑し、そして自らのフットボールをそのようなフットボールから区別してきた。そのようなオランダ人の発言は枚挙に暇がない。まさにクライフ的伝統。しかし、スペインに対してオランダが行ったのは、典型的に「美しくない」フットボールだった。オランダが意識的に守備をするというのはいい。しかし、このゲームのオランダは単に「守備的」だったのではない。オランダはこのゲーム、スペインを削りまくった。ゲームを壊そうとした。イエロー9枚、1人退場。ここまでしていいのか? 美しさよりも現実的であることを優先するということの内実がこれでいいのか? それとも守備が上手くないからこうなってしまうのか? オランダ人は、かりにこうした戦術の結果オランダが勝ったとして、喜べるのか? ゲームを見ていてオランダ・フットボールのファンとして何か悲しい思いがした。 


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今 WCのオランダは「守備的」だが、その4-2-3-1システムの後ろ4-2の守備はこれまでどこか頼りなげだった。守備から入るというならもっと 4-5-1を意識するべきだった(http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100707)。このゲーム、オランダはこれを実行した。立ち上がりから、ファン・ボメルデ・ヨンクボランチ2枚に加えて、カイト、スナイデルロッベンも積極的に守備をこなす。まさに4-5-1。ただ、スペインはこの状況の中でも前に出て、FKからセルヒオ・ラモスのヘッドに合わせて(4分)、CKからビジャが合わせて(11分)ゴールに迫る。こうした状況を目の当たりにしたオランダに、開始10分過ぎごろ、何かスイッチが入る。中盤底のファン・ボメルデ・ヨンクを筆頭に、スペインの特にシャビ、イニエスタへの縦パスが入りそうになると、体ごと持ってゆくようなタックル、チャージが開始される。で、14分ファン・ペルシー、21分ファン・ボメルと連続してイエロー、27分にはデ・ヨンクシャビ・アロンソの胸に正面から”karate kicks”(England Media)を入れてイエロー(これなどレッドでも文句が言えない代物)。スペインもこれに応じるかのようにカウンター潰しで17分プジョル、22分セルヒオ・ラモスがイエローをもらうが、オランダがゲームをめちゃくちゃにしよう、壊そうとしているのは明らかだった。(ファン・ボメルはゲーム終了までピッチ上にいたが、ゲーム途中でレッドを出されなかったのが不思議なくらいである。)

後半もオランダの潰しは続く。53分ファン・ブロンクホルスト、55分ハイティンハがイエロー。ゲームが壊されお互いにリズムをまったく作れない状況をどう打開するか?、どうやって攻撃の糸口を掴むか? この課題が両チームに重くのしかかるように、フラストレーションがたまる時間が続く。ここから、両チーム、一人ずつプレイヤーを代え試行錯誤しつつ打開策を探るという状況に入る。まず、デルボスケが59分ペドロをナバスに代え、ピッチ中央のファン・ボメルデ・ヨンクによる潰しを回避した右のサイドアタックを試みる。ナバスはマッチアップしたファン・ブロンクホルストをたびたび突破、好機を演出。これに対抗して、ファン・マルウェイクは70分、左SHカイトをエリアに交代、エリアの突破をねらうと同時に、これによってナバスのサイドアタックを押さえ込む。この交代でオランダ左サイド=スペイン右サイドは再び均衡。最終盤86分、デルボスケシャビ・アロンソをセスクに代え、中盤の支配率向上と共に、セスクの前線への飛び込みで得点、逃げ切りを図るも、やはり均衡は破れずゲームは延長戦へ。

延長前半98分、ファン・マルウェイクはスペインのアロンソ→セスクの交代の意図をそっくり再現するように、(すでにイエローを受けていた)デ・ヨンクファン・デルファールトに交代。そもそもこのゲームを闘うスペイン、オランダは、スペインの軸をなすバルサがオランダの血を純粋培養したチームであるというだけでなく、実は基本の戦術においても鏡合わせのようにそっくりである。両チームとも基本4-2-3-1。交代のオプションもペドロ→ナバスとカイト→エリア、そしてアロンソ→セスクとデ・ヨンクファン・デルファールトとまったく同じ。ミラーゲーム。延長後半開始105分、デルボスケはゲームから消えかけていたCFダビド・ビジャトーレスに交代させるが、戦術的にはこれはなかなか謎めいている。なぜ不調のトーレスを? 実際出てきたトーレスは明らかに体のキレが悪かった。しかし、私は思わず、「そうか、オランダのCFファン・ペルシーが不調だから、それにあわせて不調の CFを投入したんだ」と妙な理由で一人納得してしまった。ああ、どこまでも鏡合わせのオランダとスペイン。このゲームは同門の長兄と、天賦の才を持ち兄を超えたとも言われる末弟の闘いなのか? 敗れたオランダのスナイデルが「スペインにだけは負けたくなかった」と言ったとか。無論、この発言は普通に考えれば、スペイン(レアル・マドリー)を石もて追われたスナイデルのキャリアから来ると読める。しかし、もしかしたら、末弟に負けるなど長兄として耐え難いという意味でもありそうな気がしないか? (ラオウケンシロウか?)

延長後半。108分、CBハイティンハが2枚目のイエローでレッド。オランダはこれで10人。これが結局、スペインの得点に繋がる。運命の116分、もう延長時間も残り4分というところ、右を駆け上がったナバスから併走するイニエスタ、セスクとわたったボールは、中央に切れ込んだナバスを再度経由して、左サイドのトーレスに。トーレスペナルティエリア右のイニエスタを狙うパスは(ハイティンハの穴を埋めるべく下がった)ファン・デルファールトが足を高く上げてブロックするが、ゴール方向に大きくバランスを崩し、かつこれによってオフサイドラインが一気に後退してしまう。イニエスタがこれを利用してさらにゴール右前直近にフリーの状態で迫り、そのイニエスタに向けて、ファン・デルファールトのブロックで跳ね返ったボールを中央で拾ったセスクがパス。体勢を立て直したファン・デルファールトイニエスタに必死で詰めるも、その直前、イニエスタは右足を振り切りシュート、そしてゴール。つまり、オランダのボランチに守備がさほど上手くないファン・デルファールトが入っていたこと、しかもそのファン・デルファールトがCB役割をしなければならない状況となったこと――これがイニエスタのゴールを生んだということだ。オランダは「美しくない」フットボールをした報いを受けた。


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バカなオランダ。どんなことをしても勝ちたかったのか?

"If we go down we will do so remaining true to our ideas." トーレスの言葉を胸に刻み込むがいい。