7月4日 イタリアvsドイツ

0−0(延長2−0)。イタリアの劇的勝利!朝早起きして見た甲斐があった。

前半立ち上がり、予想通りイタリアは非常に高い位置からプレスをかけてゆく。どこかのラインを防御線に設定するのではなく、ドイツ陣内どこでもボールを奪いに行く。そしてボールを奪うとこまかく素早いパスワークでゴールに向かう。足下の技術ではイタリアに絶対勝てないドイツのディフェンスはこれに苦しめられる(前半、ドイツ選手の後ろからのスライディングタックルが非常に多かったが、これはディフェンスが後手に回っている証拠)が、3月のイタリアとの親善試合では崩壊した最終ラインが格段の進歩を見せ裏を取らせない。他方、ドイツの攻撃はワンタッチ、ツータッチのパスでなるべく早くゴールに向かおうとする‘ドイツらしい’ものだが、イタリアDFにプレスをかけられ、またパスコースをふさがれ、どうにも決定機を作れない。(この試合のワーストプレイヤーはボロウスキー。こいつは、パス精度は低いわ、しかも‘あと一人いれば’というときにいないわ、ディフェンスではイタリア選手を後ろから追いかけてばかりだわ、ドイツの攻守のリズムを壊しまくっていた。シュバインシュタイガーに後半代えられるがもっと早く交代させられてもいいパフォーマンスだった。)前半の両チームの攻防は見応えがあった。

後半、さすがに両チームとも運動量が落ち膠着状態に入る。この試合、イタリアはトッティが最初から徹底マークされていたためまったく自由にボールを持つことが出来なかったのだが、この状況を打開するため後半になるとイタリアはトッティを経由せず中盤から前線(FW、SB)へ直接ボールを供給するようになる。だが、走り込むトーニ、カモラネージ、ペロッタとの呼吸が合わず、またドイツ最終ラインの意思統一が見事で、これも上手く機能しない。これによってイタリアはオフサイドの山を築く。とは言え、ドイツのパスワークもまたイタリアDFにはね返され続ける。ドイツのパスワークはパシパシパシとつながるときの小気味よさはあってドイツフットボールのこれが魅力であることは分かるが、イタリア相手となるとどうしても精度の低さ、単調さを露呈してしまう。

現代フットボールはますますプレーのスピードが至上命題となる感があるが、これによってますますプレーの緩急が重要なものとなっている。ゆっくりした時間があるから早い時間が生きる。現在ロナウジーニョ、アンリが代表だが、超一流と呼ばれるプレイヤーはこのことをよく知っている。早いだけでは相手が慣れてしまう。超高速のパスワークを持つスペインが敗れたのは、そしてあえて言えばイングランドが敗れたのも、結局のところ時間を制御できる選手がいなかったことに尽きていると思う。デコのいないポルトガルが苦戦するのも同じ理由からだろう。ドイツには時間を制御できるプレイヤーがいない(バラックはこの能力を持っていると思うのだが、チーム戦術かバラッククリンスマン体制下では意図的にパスワークの単純な中継点になろうとしていた気がする。私が監督ならバラックに意図的にボールを‘持たせ落ち着かせる’ことを考えるのだが…)。しかし、イタリアにはこれができるプレイヤーがいる。ピルロである。

イタリアはチームとして色々な意味でスピードのコントロールが非常に上手い――緩急の攻撃スピードの使い分けに止まらず、時間帯に応じてゲームスピードをコントロールし、さらには(特にドイツのように攻撃のスピードを最大の武器にしているような)敵の攻撃スピードを遅らせたり――が、ピルロはその中でもこの能力が高い(プレイのスピードしか評価しないような単純な人間が見れば、ゲームの8割方遅攻を展開するときもあるイタリアというチームは恐ろしく退屈なチームに見えるだろうが、ガーナ戦で見せたようにイタリアはその気になればとんでもないスピードでプレイし続けられるのを忘れてはいけない)。ピルロは(ACミランのゲームでもしばしば見せるが)この試合中、胸あるいは頭でトラップしボールがまだ空中にある間に顔を左右に動かして状況を確認、ボールが落ちると同時にパスを出すというとんでもないプレイを何度もしていたが、なぜかドイツはこんなピルロを(トッティに比べ)自由にして、結果的にはこれによって敗北してしまう。

延長後半14分、デルピエロジラルディーノをねらった右コーナーキックはドイツDFのヘッドではね返される。ところが、このボールが落ちたところにいたのがゴール真正面でフリーのピルロピルロとドイツDFとの距離は前、右方向におよそ3〜4m。ピルロはボールを右方向にトラップしドリブルに入る。右足だけでボールを前に送りながら10歩右に移動するのだが、このドリブルはどこかスローモーションを見るようにゆっくりしている。ピルロの小刻みのゆっくりした(ドイツDFに見せつけるような)ドリブルを見て、前にいたドイツDF4人が全員ピルロに向かう。だが、これによって逆にDFに囲まれていたグロッソが完全フリーに。そしてそのグロッソに向けてピルロは10歩目の右足で近づく4人のDFの間を通すスルーパス!そのスルーパスを左足のインサイドでダイレクトにはたき、レーマンの伸ばした手をかいくぐるようなゴールを決めたグロッソの技術もとてつもないが、その前にドイツDFを引きつけるゆっくりした10歩のドリブルをしたピルロもまたとてつもない。ピルロのこのゆっくりした10歩のドリブルがスピードを何よりの身上とするドイツのチームには欠けているものを象徴していると言ったら大げさか?

そして、さらに、失点したドイツが前がかりになったところにカウンターを浴びせ、わずか30秒ほどでデルピエロが2点目を決めるのだが、これはもうイタリアのお家芸のデモンストレーション以外の何物でもないと感じたのは私だけだろうか?終わってみてイタリアの巧さを再度確認したゲームだった。