05−06 チェルシーvsマンU(プレミアシップリーグ#36)

3−0。HDレコーダーの中で塩漬けになっていた、半年ほど前のゲーム。録っておいて見る前に結果を知ってしまって、どうしようかな、でもチェルシーの優勝が決定したゲームだし、ルーニーが骨折したゲームだし、やっぱり見ようかなと思いつつ長らく放置。やっと見た。チェルシーは守備の厚さ、中盤の制圧、構成、攻撃の早さ、多彩さ、いずれにおいてもマンUを圧倒している。(チェルシーの戦術はWCのイタリアとまったく同一のものだが)強者のカウンターはやはり強い、でも、このチェルシーに勝ったバルサはもっと凄いってこと?――と考えさせられたゲームだった。

チェルシー先発;GK−チェフ、DF−リカルド・カルバーリョ、テリー、パウロ・フェレイラギャラス、MF−マケレレ、エシエン、ジョー・コールランパード、FW−ロッベンドログバ(一応4−4−2だが、実質的にはロッベン、J・コールをウィングとする4−3−3)。マンU先発;GK−ファンデルサール、DF−ファーディナンドシルベストル、ビディッチ、ガリー・ネビル、MF−ロナウドパク・チソンギグス、オシー、FW−ルーニー、サア。(まあ、今になってのことじゃないけど、イギリス人は両チームとも3人だけ。チェルシーは監督ポルトガル人、オーナーロシア人、マンUは監督こそイギリス人だがオーナーはアメリカ人。両チームとももはやイギリスのチームとはおよそ言えない状態だよな。)

前半。開始直後、両チームとも、最終ラインはセンターラインからオン・ザ・ボールで下手をすると自陣10m、オフ・ザ・ボールでも20mを維持。つまり、両チーム全選手がセンターラインをはさんでほぼ30m以内にいるというとんでもなく密集した状態でパスワークとプレッシングがなされる。だが、チェルシーは即座にこの密集状態を制圧し、開始5分でギャラスが得点。何しろ、チェルシーは中盤から前のプレイヤーすべての能力が際だっている。誰もが足下の技術がありかつ運動量がとてつもなく、さらに誰もが攻撃の起点になれる。特にエシエン。こいつはオーバーラップしたDFに代わって最終ラインに入っていたかと思えば、最前線で相手DFをドリブルで抜いている。エシエンは加入1年目にしてランパード以上にチェルシー中盤のキープレイヤーとなった感がある。これに対して、マンUのプレイヤーは運動量が少なく、攻撃は実質的にロナウドルーニーがすべて。パク・チソンはほぼいないも同じ(というか、チームメートがパク・チソンにパスを出さない。パク・チソンは入団後1年たっているというのにチームメートに信頼されていないのだろう。)まったく、ロナウドのドリブルでしかボールを前に運べない。これじゃチェルシーに太刀打ちできるはずがないよ。

前半最後の15分、マンUがボールを保持できるようになり実況アナウンサーは「マンUが攻勢」とか言っていたが、実際にはマンUはボールを持たされている状態が存在していたと言うべきだ。実際、マンUはペナルティー・エリアの近くまでは行けるのだが、そこから先にはチェルシーDFに阻まれてなかなか侵入できずシュートもほとんど打てなかったのだから。(実際、もしこの状態が改善すべき状態であるなら、モウリーニョは後半メンバーチェンジなど何か手を打ってくるはずだが、何もしなかった。)いい加減‘ボールを持って敵陣に入っていたら攻勢’などという見方は滅んで欲しいものだよ。

後半。両チーム、メンバー交代なしで開始。前半最後の15分の状態が後半になっても続く。マンUは攻撃が上手く機能しないこの状況を見かねて、ディフェンシヴ・ハーフのギグスが前線にしばしば顔を出すようになる。これにより、さらに一見チェルシーが押されているように見える状態となる。が、後半15分、一本のパスが中盤に下がっていたドログバに出る。ドログバはそのパスを受け、背中にDFを背負いつつ体をひねりながら後方に(つまり、ゴール方向に)DFを抜くパス。そこにいたのがジョー・コールジョー・コールは5mほどドリブルして強烈なシュート!きれいに2点目である。あまりにきれいなカウンターで言葉なし。だが、マンUからすれば、これは悲しすぎる失点だろう。ロートルギグスを本来のサイドで使うことが出来ずボランチで使わざるを得ない悲しさ、そのギグスが見るに見かねて攻撃参加しなければならない悲しさ、ギグスが攻撃参加した後の穴を埋める人間がいない悲しさ。マンUはほんとつくづく悲しい状態だ。

その後20分、両チームとも同時に選手交代。マンUロナウドを下げファンニステルローイに、チェルシーロッベンデミアン・ダフに。チェルシーの交代は分かる。ウィンガーはスピードが命。前半から走り回っていたプレイヤーを生きのいいプレイヤーに代えて、さらにカウンターのキレを鋭くする――分かりやすい。(30分頃には、モウリーニョジョー・コールクレスポに代えてしまうが、これも同じ理由からだろう。要するに、先発ウィンガーのロッベン+J・コールの運動量が落ちてきたところで後半ダフ+クレスポに丸ごとチェンジ、である。‘ぜいたく’としか言いようがない選手運用だ。)しかし、マンUの交代は分からない。ほとんどルーニーとともにマンUの攻撃を仕切っていたロナウドを下げてどうするのか?ロナウドは前半から確かに運動量が多かったが、もう走れない状態になっているようには見えなかった。代えるなら、ぜんぜんボールに絡めないパク・チソンだろう。実際、この後、中盤でボールを前に運ぶプレイヤーがいなくなってしまい、マンUの攻撃はさらに機能しなくなる。ボールを持っていても何も出来ない。持ってるだけ。シュートも出来ない。前がかりになってシュートで終われないとどうなるか?ますますカウンターを食らいやすくなるぞ…と思っていたら、案の定、後半25分、再びカウンターを食らって、駆け上がった‘CBカルバーリョに’豪快に決められてしまう。それにしても、カルバーリョの足がこれほど速いとは思わなかった。とんでもないスピードで駆け上がってゆくカルバーリョと、(これに比べると)ほとんどジョギング状態でその後を追っていくマンUのDFシルベストル――この対照的なDFをともに映し出す映像はこのゲームの最も印象的な映像の一つだったが、同時に再びマンUの悲しさを感じさせるに十分な映像だった。中盤がダメな上に、とろいDF…。今やDFにもスピードが求められる時代だというのに…。悲しすぎる。(ルーニーが骨折するのはこの後。ルーニーは、中盤前目でドリブルを開始、トップスピードでパウロ・フェレイラにタックルされ、ぶっ倒れる。ルーニーロナウドが下がった後1人孤軍奮闘していたので、さすがにかわいそうだった。)

最後の15分、チェルシーは、テリー以外のDF(テリーは負傷でぜんぜん動けない状態だが、ピッチで優勝の瞬間を迎えさせようというモウリーニョのはからいで交代せず)、MFの計6人くらいでボール・キープに入る。決して自陣内奥深くでキープしているわけではない。センターラインあたりからマンU陣内にかけての位置でキープである。そして、これにマンU疲労もあってまったくプレスをかけられず、ひたすら見てることしかできない。これだから、いわゆる<攻撃的vs守備的>、<カウンター・フットボールvsポゼッション・フットボール>などという二分法はフットボールを見る際まったく役に立たないと言うのだ(→http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20060712)。チェルシーのプレイヤーはつくづく何でもできる。現代のフットボールにおいて、この‘何でも出来る能力’というのはますます必要になっていくんだろう。(‘金さえかければ当然だよ’とチェルシーを批判する人間もいるが、金をかけてもダメなチームもあるのだから(レアル!)、モウリーニョの手腕はやはり認めざるをえないだろう。)



ファーガソンは是非ともバラックが欲しかっただろうと思う。少なくともチェルシーが相手だと、もう中盤はまったく構成できない状態になっている。スピードがないDFもひどいが、技術不足、走力不足の中盤もひどい。でも、バラックの立場に立ったら絶対マンUは嫌だろうと思う。今のマンUのメンツ、1流チームのメンツじゃないもん。絶対チェルシー入った方が刺激的だよ。06−07シーズンに向けてチェルシーと違って大型補強の話もないし、アーセナルと違って新たな有望新人を発掘することも育てることもできていない。大型補強が出来ないのは新オーナーのアメリカ人、グレイザーが金を出さないせいだからどうしようもないのだろうが、新人発掘、育成は才能を見抜く目と育成システムの問題だから明らかにファーガソンの責任だろう。イギリス大衆メディアはここ数年でマンUの有効なスカウティングは、ルーニーファンデルサールだけと切り捨てているが、このゲームなどを見るとその通りとしか言いようがない。マンUは2流チームへの道をひた走っている。チャンピオンズ・リーグの1次リーグ敗退が納得できる。逆に、よくこれでプレミア2位になったよなあ、不思議だ。アーセナル、ヴァプールの方が上だろう。プレミア06−07シーズン予想;マンUは4位以下。