映画『マイアミ・バイスMiami Vice』2006

やっと見た。

80年代前半、ドン・ジョンソン(asソニークロケット)+フィリップ・マイケル・トーマス(asリカルド・タブス)のコンビで一世を風靡した、マイアミを舞台としたアクションTVシリーズの映画版。主演はコリン・ファレル(asソニー)とジェイミー・フォックス(asタブス)。昨年からファン待望のTVシリーズの完全DVDボックスも発売が開始されており(現在は全5thシーズン中2ndシーズンまで発売中)、相乗効果をねらってか、TVシリーズではクレジットが制作総指揮だったマイケル・マン自らが(『コラテラル』に続いて)監督して映画化!というもの。

TVシリーズの延長を期待してゆくと色々な点であまりに違うので、期待を裏切られる。


TVシリーズでは、明るいマイアミの画面、カラフルな色彩の使用、イタリアン・ブランドの服(ベルサーチ、アルマーニetc)、高価な車(フェラーリ)、ボート、豪邸、コミカルなジョークなど、犯罪組織に立ち向かう特捜刑事(=バイス)というテーマとは正反対の小道具が多用され、演出がなされていたが、映画は車、ボート、家などは豪華だったが、それ以外のTVシリーズを特徴づけていた要素はまったく出てこない。

まず、画面が極端に暗い。昼間のシーンがほとんどなく夜のシーンばかりで、しかも全体に明度を押さえたライティングを採用しているので、何しろ画面が‘文字通り'暗い。しかも、明るい色の使用を極端に押さえているため、ひたすらモノトーンのダークな世界である。フェラーリ430・デイトナ・スパイダーはソニーのドライブでハイウェイを疾駆しはするが、イタリアン・レッドなど忘れろと観客に言うかのように、マンはグレーの車体色をチョイス、しかもこれを夜の暗い場面でしか使わない。また、本来であれば、明るい太陽光にきらめいているはずのカリブ海の海も、マンにおいてはその明るい緑を奪われ、あたかもバリウムのようである。無論、これは、麻薬組織への潜入操作というストーリーからして、ダークな雰囲気を醸し出すためだろうが、場面によっては何がどうなっているのか分からないほど暗い。確かに、そのため、最後の暗闇の中での銃撃シーンなど恐怖感は倍増する(どこから弾が飛んでくるか分からない、そしてどこに味方が、どこに敵がいるかすら分からない恐怖!)が、2時間延々と同じ暗い色調を見せ続けられると単調な印象をぬぐえない。

しかも、役者がこれまた全編極端に押さえた演技しかせず、これによってますます映画全体が起伏を欠いた印象となる。そして、これがただでさえ分かりづらい脚本に拍車をかける。一般的には脚本は映像と絡み合ってこそ記憶に刻まれるわけだが、マンの作り出す映像はその単調さゆえに、ストーリーが頭になかなか入ってこない。

派手な色遣いで登場したマイアミ・バイスは80年代前半不況下の暗いアメリカにインパクトをもたらしたが、マイケル・マンは今のアメリカにはモノトーンでダークな映像こそ相応しいと思ったのだろうか?


TVシリーズのもう一つ重要な要素はセクシーな女。映画版では(『覇王別姫』で有名な)コン・リーがこの役割を担うのだろうが、この映画のコン・リーは正直どう見ても美人ではない。日本のそこら辺にいるオバサンである。もともとそれほど美貌で売っている女優ではないが、それにしてもなぜここまで不細工に撮るか激しく疑問に思う。ヒロインがこれでは映画に入っていけない。

そもそもこの映画のヒロインになぜ東洋人を起用したのか、この理由からして分からない。TVシリーズではバイス主任のキャステロが随分東洋趣味を醸し出していた(2ndシーズンには原題「Bushidou(武士道)」なる話がある)が、これはマンの趣味だったのだろう。確かに、マイアミ・バイスTVシリーズのヒットの一因は、多種多様な移民文化を統合して見せたところにもあるので、その延長なのかもしれない。

そうではあったとしても、TVシリーズでも、どうもマイアミ・バイスに出てくる女は役柄的にはセクシー美女であるはずなのに、この役柄から逸脱した女優のキャスティングが目に付いていた(例えば、1stシーズンの「Calderon's Return」に出てくるカルデロンの美貌の娘役の女とか、どう見ても美しく見えない)。マンはどうも女を見る独特の目を持っている(あるいは女を見る目がない?)としか思えない。TVシリーズでは色気を振りまいていたバイスの女刑事、ジーナにしろトゥルーディにしろ、映画ではおよそ色気のない地味で男っぽいワーキング・ウーマンである。

確かにTVシリーズを最初に見たとき、その映像のリアリティに驚き、TVでここまでやるかと思ったものだ(NHKで放映している『ER』などのリアリティ感覚はマイアミ・バイスTVシリーズの延長線上に間違いなくあると思う)が、この映画版でマンはさらにリアリティを突き詰めたつもりなのだろう。妙に色気たっぷりの女などこの映画には不要との判断があるのだろう。




私は見終わって、監督の意図は十分分かって面白かったのだが、やはり「うーーーーん」と唸ってしまった。ちなみに、映画は封切り一月で今月末上映終了となるらしい。