カフェ ぐるぐる

西武線富士見台北口駅前(練馬区

とぼけた名前だが、本当に実在する店の名前である。驚異の店である。その店名通り本当に目がぐるぐる回りそうな店である。

先日、夕方、富士見台で担々麺を食べようと出かけると、目当ての店が貸し切り。中華料理屋が貸し切りなどあるのかと思ったが、ここからすべてが始まった。

「じゃ、どこで食うか」とYと話しながら歩いていると、大粒の雨がばらばら降ってきた。こりゃまずいというので、そのとき目の前にあった、問題の「カフェ ぐるぐる」へ入ってしまった。

この店自体は随分前から知っていた。店の前に手書きメニューが置いてあり、フォーとか出すらしいことも知っていた。「まあ、どんなものかわからないけど、いいや」という感じで入店した。

薄暗い。夕方6時だというのに、それなりに広い店内に客が誰もいない。視界の端で、テーブルに座って新聞を読んでいるオヤジがこちらを一瞥してゆっくり立ち上がる。何だ、客がいたのかと瞬間思ったが、立ち上がってそのまま厨房に入ってゆく。店主だった。「いらっしゃいませ」の一言もない。嫌な予感がする。

やがて店主の妻らしい人間が注文を取りに来る。ビールと生春巻きとチキン・フォーとビーフ・フォーを注文する。ビールを飲みながら待っていると、しばらくしてまず生春巻きが来る。ここから、めくるめく「ぐるぐる」ワールドが始まった。

生春巻き。実質的にレタスしか入っていない。香菜もネギも豚肉も、具材らしい具材はレタス以外何も入っていない。わずかに小さなエビのスライスが三つ入っているが、味がしないので入っていないのと同じである。本当にレタスの味しかしない。レタスを生春巻きで巻いただけである。Yが「味がない」と独り言のように言う。このレタス巻き二本で500円である。高いレタスだ。

レタスを食べ終わってさらにしばらくすると、Yのチキン・フォーが来る。器の中を見てびっくり。フォーの中にワカメともやしが入っている。三角のにんじんが入っている(しかも、このにんじん皮を剥いていない!)。見た目、塩ラーメンである。

次いで、私のビーフ・フォーが来る。上にわずかに乗っている肉が鶏ではなく牛肉(の薄切り)に変わっただけで他はすべて同じである。普通チキン・フォーとビーフ・フォーではそもそもスープが違うはずなのだが、まったく同じ色、つまりまったく同じスープである。しかも、このスープ、ほとんど味がない。鰹節と味の素で作ったような味がかすかにすると言えばする程度である。それにしても、なぜ鰹出汁なのか?

フォー(麺)を食べる。ゆですぎで、ぐずぐずにのびきっている。箸で引き上げるとぶつぶつ切れる。スープがかすかな鰹出汁なので、のびきった幅の狭いきしめんの残骸を食べているような感じがする。フォーは一般的に何しろのびやすいが、それ以上に食べている最中にもさらに水分を吸ってのびてゆく感じがする。ますます切れる。また、水分を吸って量が増えていく。いくら食べてもいつまでもフォーがある。Yが「残していいかな?」と尋ねる。無言でうなずく。そういえば、食べ始めてからまったく会話をしていない。あまりの不味さに口を開けば悪口雑言が出てきそうで、また食事中にその料理を不味いと言うとますます不味くなるので、黙々と食べていた。チキン・フォーが700円、ビーフ・フォーは800円である。金曜日に食べた幸福なせいろ(蕎麦)は一枚600円だった。内心、落涙する。

いったい、この料理を作った人間はベトナム料理、フォーというものを食べたことがあるのだろうか?なぜワカメを入れる?なぜモヤシを入れる?なぜにんじんを(皮付きのまま)入れる?海外で東洋人というだけでおよそ日本食とも言い難い日本食を出す人間が増殖しているので、日本食料理の認定証を出すべきだとか、一部政治家、役人は言っているが、日本人はそんなことを言う権利があるどこにあるのか?ベトナム人がこのフォーを食べたら暴動を起こすぞ(フォーと分からず、何とも思わないかもしれないけど)。

ベトナム料理がどうの、フォーがどうのと言う以前に、そもそも金を取って料理を出すということがどういうことか、この料理を作った人間は解っているのか?自分の料理を食べたことがあるのか?恐らく、料理をすることが嫌いなのだろう。違う商売をしろと言いたい。

不味いとかどうとか言うレベルではない。このような食い物を出す店が日本にあるということがほとんど神秘である。無論、海外ではとんでもない料理を食べることがたまにある。しかし、ここは日本である。東京である。何か異空間に来たような感じだ。ここはどこ?私は誰?頭が回りそうだ。そうか、だから「カフェ ぐるぐる」なのか?


早くつぶれてくれ。