Germany vs Spain

Germany
0:1 (0:0)
Spain
* Carles PUYOL (73')
Match 62 - Semi-finals - 07 July
ドイツが勝ったら自分にはフットボールを見る目がないと思っていたので、手に汗しながら見た。見終わってとてつもなく疲れた。

結果はスペインの完勝。ドイツは何も出来なかった。このゲーム、ドイツが作り出した決定機は前半ロスタイム、エジルがスペイン最終ラインを突破しかかった時、そして後半69分、ポドルスキーのセンタリングにクロースが合わせた時、その2回ではないか? これに対してスペインが作り出した決定機は数え切れない。


スペイン

すでに言ったように、スペイン代表の成功は基本的にバルサというクラブチームあってのもの(http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100613)。だが、今WC、スペインはトーレスの不調もあってもう一つ波に乗れなかった。どうするか? デルボスケがこのゲームで出した答えは分かりやすい。それは「ベースの強化」。つまり、スペインのバルサ血中濃度を上げること。デルボスケは体調不良でチームにフィットしないトーレス(リヴァプール)を先発から落とし、ウィンガーにバルサのペドロを起用。これで、4-2-3-1の3-1はすべてバルサ (シャビ、イニエスタ、ペドロに最前線の来シーズンバルサ入りのビジャ)、FWからCBへというチームの軸もすべてバルサ(ビジャからシャビ、ブスケツを経て、ピケ、プジョル)。これが大成功。ピッチ横幅いっぱいに展開する、シャビを軸としてイニエスタ、ペドロのポジションチェンジの滑らかさ、シャビとボランチ(ブスケツ+アロンソ)、ボランチとCBの連携の滑らかさ、彼らの時に空間を圧縮し、時に空間を拡張する、長短のパスワークによるその空間構成の見事さ――これは(スイス戦では出来なかったこと(http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100620)だが)、このゲームを見る限り、もはや寄せ集めの代表ではおよそ実現することはできないだろうと思われる水準だった。ドイツが中盤でスペインのパスワークに何もできなかったのも無理はない。

ただ、フットボールにおいて何らかの利得を得るということは何らかの損失を覚悟しなければならない。トーレスを外しペドロを起用したことには難点もあった。それは、FWが2枚(トーレス+ビジャ)から1枚となってフィニッシュが難しくなったこと。今WC これまでビジャは最前線をトーレスにまかせ、つまり相手CBの圧力をトーレスが受け止め、これによってウィンガー位置から比較的自由にゴールに迫ることが出来た(そして得点できた)。しかし、このゲーム、ビジャは直接ドイツCBの圧力を受け止めなければならなくなった。ペドロの起用で確かに中盤はドイツを圧倒した、しかし、同じ理由でフィニッシャーが不足した。このゲーム、スペインが大量の決定機を作り出しながら、結局流れの中からゴールできなかったのはひとえにこのためだろう。だから、逆に「トーレスが完調だったら」、スペインは中盤ではさほどドイツを圧倒できなかったが、流れの中で得点できたのではないか、違うゲーム展開となったのではないか、という推測が成り立つことになる(恐らく、それはEURO2008決勝のスペインの再現ということになろう)。利益と損失、長所と欠点は裏表。結果からどちらかだけを見ることは判断を誤る。

フィニッシャー不足というこの状況を救ったのが、プジョルの、同僚ピケをはじき飛ばす勢いの気迫漲るヘッド。しかしこれは偶然ではない。フィニッシュできないスペインは前半から何度もCKを得てはその度に、「嫌になるほど大男揃いのドイツに高さ勝負するつもりありません」と言うかのように、ショートコーナーを反復していた。73分のCKでも、シャビが蹴る直前まで、足下の技術があるピケがGK前付近に陣取っているのに対して、プジョルは大外で「足技のない自分は関係ありません」みたいな顔をしてぼーっと立っている。ところが、プジョルは、シャビがキックするのと同時に猛然と前方へダッシュ、そこにいる人間を敵も味方もなぎ払うかのようなヘッドを決めてしまう。戦術勝ちだろう。


ドイツ

ドイツはこれまでのいずれのゲームも立ち上がりからフルパワーをかけて全開で飛ばすのが常だった。だが、このゲーム、ドイツは立ち上がり、明らかに守備的で慎重に、というよりもどこかおどおどと、ゲームに入った。これまでの印象があったので何か拍子抜けした。

無論、これはレーヴにより選択されたものなのだろう。恐らくだが、レーヴはこのゲームのドイツを、09-10CL、バルサに勝利したインテルになぞらえたのではなかろうか? 徹底的に守りきり、効果的なカウンターを打つドイツ。確かに特にアルゼンチン戦後半、ドイツはアルゼンチンのパスワークを押さえ効果的なカウンターを打つことが出来ていたので、アルゼンチン以上にボールを支配するだろうスペインには、90分これで行くしかないと思ったのかもしれない。

しかし、結果からするにだが、ヤング・ドイツはやはりバリバリ全開でゲームに入るべきだったように思う。彼らはこれまでそれでリズムを掴んできたはずだろう。インテルのように守備からリズムを作り出し、乗っていけるチームではないだろう(今WCでの日本は、パスワークからリズムを作り出す過去の日本と違い、守備からリズムを作り出すことができていたという点では十分評価できると思う)。 レーヴはヤング・ドイツの持ち味である全開フルパワーでゲームに入らせてもよったのではないか? チリのように、ただしチリよりも冷静に。そうすれば、少なくともあのどこかおどおどした感じはなかったのではないか? 仮にフルパワーをかけてもスペインを崩せず、逆にカウンターを打たれそして負けたとしても、つまり結果としては同じ結果となったとしても、ヤング・ドイツとしては燃焼感があったのではないか? ドイツプレイヤーは最終盤、パワープレーをかける以前、何度全開で縦に走っただろう? 前に走れないポドルスキーシュバインシュタイガーを見るのはドイツのフットボール・ファンとしては悲しかったことだろう。持ち味を出し切って勝負すれば良かったのに。ゲームが終わって、ドイツのプレイヤーは「完敗の感覚」と同時に「やり残した感」を強く感じていると思う。少しゲームを大切にし過ぎたせい、というより、考えすぎたせいなのかもしれない。考えすぎて自分たちの本来的姿を見失ったこと、これがドイツとしては悔やまれる。

策士、策に溺れる。ドイツのフットボールは理詰めの規律と訓練で作られている感が強いが、理で切れぬ部分もあるということなのだろう。


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おまけ;決勝オランダvsスペイン予想

好きなチーム同士の対戦でめちゃくちゃうれしい。どちらが勝っても初優勝。どちらが勝ってもおめでとう。だが、オランダの決勝進出は予想していなかった。ブラジルだと思っていた(http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100613http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100622http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100703)。準決勝までのゲームを見る限り、オランダはどこか「新しい衣装に体が馴染まない」感がある(http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20100707)。他方、チームの熟成という点で、今のスペインは国代表レベルでは簡単に到達できない水準にある。トーレスがいないとしても、バルサをベースとするスペイン有利は動かないと思う。