C.ロナウド問題

ポルトガルvsイングランド戦後、イギリスでロナウドポルトガル)のバッシングがひどい。

BBCなどはまだ冷静だが、大衆メディアは多様な‘出来事/発言/写真’をモンタージュして‘ヒール・ロナウド’の肖像作りにいそしんでいる(http://www.mirror.co.uk/sport/football/tm_objectid=17347189%26method=full%26siteid=94762%26headline=you%2dve%2dgot%2dno%2dhonour%2dron-name_page.html)。この状況を受けてロナウドはどうもマンUを退団する気配が濃厚になっているようだ。

問題のシーンはルーニーが退場する場面(ポルトガルvsイングランド戦後半17分頃)。イギリス大衆メディアは、この場面を;

ロナウドが『ルーニーリカルド・カルバーリョの股ぐらをわざと踏んづけたんだよ』と主審に‘チクル’」
→「ルーニーが『何言っているんだよ、オレはそんなつもりないよ』とロナウドに‘抗議’する」
→「主審が『そうか、ロナウドの言うとおりだな。ルーニーは退場だ!』と‘判断する’」
→「ロナウドはベンチに戻りざまチームメートに‘だはは、うまくやってやったぜ、とチームメートにウィンク’する」

と物語化(いい子ぶって先生に告げ口するが、実は邪悪なロナウド!)してバッシングのきっかけを作ったわけだが、何はともあれその問題のシーンを見直してみた。

まず、素朴にみると、ロナウドの映像を‘ウィンク’と意味づけることも、‘退場時の’とコンテクスト化することも難しい。なにせロナウドの映像は、ルーニーの退場が宣告された場所からベンチに向かってロナウドが無表情に歩いている際のもので、その直後にロナウドは給水しつつ監督から指示を受けているから。ウィンクは目に汗でも入ったとも解釈できそうだし、‘ウィンク’だとしてもルーニーの退場と切り離して(映像には映っていない)ベンチに何かわからないが(例えば給水の)合図をしたという程度に解釈してもまったく問題ないようにも見える。

にもかかわらず、イギリス大衆メディアは上のような解釈を大々的にばらまいたのだから、この解釈の技術は考えてみる価値があるだろう。自らの映像解釈の妥当性(審判が選手に言われて判断を決定するかとか、はたしてロナウドは本当にウィンクしたのかとか、ウィンクしたとしてこれがルーニーの退場と同じコンテクストの出来事なのかとか)はまったく論じないまま(少なくとも、ロナウドが上のような物語化に対して何かコメントをしたということは私の知る限りない)、一定の解釈を作り上げる技術――これはどのようなものなのだろう?確かに、ロナウドはダイヴ(シミュレーション)が多いが、これはロナウドに限ったことではない。みんなやってる。それがいいこととは当然言わないが、ロナウドのダイヴを見ていると「君はまだダイヴの技術が未熟だよ」と言いたくはなるが、「とりわけロナウドは悪質だ」とはおよそ言いたくなるようなことはない。そんな程度の人間を大悪人に仕立て上げる技術論は分析するに値するだろう。

無論、大衆メディアを精査してもいないので、この分析は今できるはずもないが、今日見られるイギリスメディアのHPを見ると、もはや解釈を提示する段階は過ぎてしまい、今やロナウドを‘むしりつくす’段階に入ってしまった感がある。そして、イギリスから遠く離れた極東の日本でも、この解釈のテクノロジーを利用してロナウドをむしろうとする者たちがいる。例えば、この件に関する朝日新聞7日朝刊のコラム(20面)はこんな具合に書く。

ポルトガルロナウドがボールを持つたびに、大ブーイングが巻き起こった。発生源はフランス応援団ではなく、中立の観客たち。 / イングランドとの準々決勝での行為が「卑怯者」のレッテルを張られた。マンチェスターUの同僚、ルーニーポルトガル選手の股間を踏んだと主審に言いつけ、作戦通りにレッドカードを引き出すと、ベンチにウィンクする場面がテレビなどで流れたのだ。 / そんなのは、おかまいなしの強心臓が、21歳のドリブラーの武器だ。

これが事実だとでも言わんばかりの書き方だが、まったくイギリス大衆メディアの言い分そのままである。BBCだってこんなことは書いていない。イギリスから遠く離れた極東の「知性」を売りにしている大新聞の応援を得て、イギリス大衆メディアも感謝感激することだろう(?)。朝日は、対フランス戦でのポルトガルを「ヨーロッパ辺境の卑劣な小国」といった具合にクソミソに書いたが、私はこんな朝日をぜったい許さない。ポルトガルの戦いぶりはそのように語られるようなものでは決してなかった。確かにシミュレーションと取られてもしょうのないプレーはある。しかし、それはどのチームだってやっているレベルのもので、とりわけポルトガルがひどいというようなものではない。朝日は前回WCの時も韓国戦のレフリング(対イタリア戦に関して言えばFIFAも後に重大な誤審が二つあったことを認め、今回WCにおける審判審査の厳格化を公約することになったそのレフリング)をまったく問題化しないまま韓国賞賛記事を書いたため、読者から大バッシングを受ける羽目になったが、このフットボール自体を見ず別の何かを見て記事を書くという姿勢は今もまったく変わっていない。「言葉は希望」とかCMで寝言言ってないで「言葉は権力」とはっきり自覚しろ!