イギリス雑感3

イギリスでは、日本では自家用車の主流であるミニバンというものを見ない。ワゴン、ワンボックスは見るが、それほど大量に走っているという印象も受けない。ほとんどの車は4ドアセダン。そして、次に多いのが日本ではほぼ完全に絶滅してしまった2ドアクーペ、スポーツカーである。

イギリス人は、車は加速してこそ車、ブレーキが利いてこそ車、カーブでGがかかるのは車に乗ってれば当然、と考えているとしか思えない。なんで街中でそんな加速をする?、あるいはなんで街中の交差点やカーブをそんな高速で抜けようとする?と、タクシーに乗って何度思ったことか、街中を走る車を見て何度思ったことか。タクシーの中でスーツケースがごろんごろん転がっているのに、タクシーはGをかけて交差点を曲がってゆくし、けたたましいサイレンを鳴らしながら走ってきた救急車も(日本であれば徐行する)交差点をまったくスピードゆるめる気配もなくタイヤを鳴らす勢いで曲がってゆく(しかし、あんな運転をする救急車に乗っている病人はなかなかつらいのではないだろうか?)。

車はこういうふうに乗るものだと皆考えているらしいことを反映しているのか、特にロンドン市内は何しろ高価格の2ドアクーペ、スポーツカーが多い。2ドアのベンツ、BMWはもちろん、ポルシェ、アウディTTあたりはもう完全に定番。さらざら走っている。フェラーリランボルギーニ、アストン・マーチンもちらほら。はてはフォードGT40まで走っている。本物だろうか?日本だったら床の間に飾られているような車だ。日本のマツダ・ロードスター、RX8、ホンダ・S2000も人気があるようでたくさん走っている。そして、驚くのは、まずこれらの車がとんでもない爆音を轟かせながら結構なスピードで走っていること。どうも加速性能を日々実感しないと気が収まらない人たち、カーブを見るとコーナリング・スピードにチャレンジしたくなる人たちが多いようだ。第二に、スポーツカーに乗っているのが結構なおじいちゃんたちであること。銀髪のおじいちゃんがアストン・マーチンのヴァンテージを爆音轟かせて発進させていったりする。しぶい。

イギリス滞在中見ていたTVニュースで、速度自動取り締まり機の導入の是非なんて話題を取り上げていたが、こちらには少なくとも自動取り締まり機はないらしい。CCTVが街中至る所にある、とんでもない「監視社会」(と何度もイギリス人自身がニュースで問題化していた)のイギリスで自動取り締まり機がないというのも奇妙な話だが、イギリス人は車の速度には寛大なようだ。

いずれにしても、これが車文化というものなのだろう。常日頃から加速、減速の性能を愛し、横Gを愛している国民であればこそ、すぐれた車を作れるのだろう。日本のように走っているのはミニバンばかり、とろとろ目的地まで行く手段としてしか車を認識できない国民の住む国じゃ、走行性能をとやかく言う車を作れるはずはないし、その必要性はないのだろうと思わず考えてしまった。
  走り去るフォードGT40(本物?)