イギリス雑感4

今回のイギリス漫遊の私の最大の目的は、リヴァプールアンフィールド・スタジアムで行われた、チャンピオンズ・リーグ<リヴァプールvsボルドー>を見ること。

リヴァプール

試合当日、マンチェスターで目覚めるとホテルの窓を打ち付ける雨、風。この天気じゃ試合がたいへんだぞと思っていたが、9〜10時頃には急速に回復。風はものすごく強いが、日差しがときおり差すようになる。

昼頃、列車でリヴァプール着。海辺のリヴァプールは日は出ているがマンチェスター以上にとんでもない風。雲がとんでもないスピードで西から東へ(つまり大西洋から内陸に向けて)流れてゆく。風が強いせいでとても寒い。とりあえずホテルに直行する。

リヴァプールの駅もそうだったが、ホテルにも明らかにそれと分かる格好をした今夜の試合目当てのサポーターがたむろしている。フランスからのサポーターもいるが、リヴァプールのサポーターもいる。イギリス国内からもリヴァプールの応援に泊まりがけで来る人間がいるようだ。フランス人だかイギリス人だか分からないが、「あまったチケット持ってない?」とか話しかけてくる。

その後リヴァプールの街に出て昼飯を食べたあと、市内のバスターミナルに行き、バスの乗り場を確認しようとするが、ガイドブック(「地球の歩き方2004年版」)に出ているアンフィールド行きバス乗り場は影も形もない。仕方なく、インフォメーション・センターでどのバス乗り場から何番のバスに乗ればいいのか聞くが、案内のオバサンはほおづえをついたまま、愛想のかけらもなく、何度も同じことを聞かれてうんざりだという口調で、「No7、17」。7番乗り場で、17番のバスということらしい。「いくらか?」と尋ねると、やはりほおづえをついたまま、「I have no idea !」。ホントにイギリス人は街中で何かあるとすぐ「Excuse me」、「Sorry」と礼儀正しいのだが、こと仕事の場面のやりとり(Talk at Work)となるとなぜか愛想のかけらも感じられない人が結構いる。仕事上の愛想など感情労働、そんな余計な労働する必要がどこにある?と言われているようだ。まだ聞きたいことはあったのだが、このオバサンと話すのは遠慮したいので早々に引き上げる。

4時半頃ホテルに戻り、今度はホテルで、受付にいた人間に「アンフィールドに行きたいのだけど、時間はどのくらいかかる?」と聞くと、「タクシーで15分くらい」と言う。なんだ近いんだ。タクシーで行こう。

1時間ほど休憩して5時半前ホテルを出る。試合開始は19:45なので、まだ2時間以上ある。ところが、駅のタクシー乗り場に行くと赤いリヴァプールグッズに身を固めた人間で長蛇の列。待つこと数十分。しかし、タクシーにの乗ったら確かに15分、5ポンドほどであっという間にアンフィールドに到着!

 リヴァプール・ライムストリート駅

アンフィールド・スタジアム
アンフィールド・スタジアムは普通の街中にいきなり巨大スタジアムがそびえていて奇妙な感じがするが、それでもはじめて見ると「これがあのアンフィールドかあ」と感慨深い。だが、そんな感慨以上に、周囲のとんでもない騒ぎに呆然。周囲に建ち並ぶパブ、屋台風の店は人で一杯。みんなビールをぐびぐび飲んでいる。訳の分からない歌を大合唱しているグループもある。オフィシャルグッズを扱うショップ内は人の洪水。

しかし、私は東京で手配したチケットが手元に届いていないので、そのような騒ぎを横目に、まずはチケットセンターに行ってチケットの再発行をしてもらわねばならない。日本の業者から指示されたとおりのことを窓口で言うと、あっさりチケットを渡してくれる。チケットを見てまたちょっと感動する。この段階で6時過ぎ。まだ時間があるのでショップの中をうろうろしておみやげを買い込む。人で一杯。殺気立っている。レジは長蛇の列。そこそこのおみやげを買い込んで外に出ると試合開始1時間前の6時45分。

うろうろしていてもしょうがないし、外は寒いので、スタジアムの中に入ってしまう。危険物、ペットボトル、ビン、酒の持ちこみは禁止。チェックを受けて入場。席はメインスタンドほぼ中央、最前列!(正確にはBlock;PK4,Row;1,Seat;75,76。)ピッチまで2mくらいしかない。緑の芝が間近で美しい。三度、感動する。しかしそれにしても寒い。スタジアム内風はそれほどないが何しろ寒い。ショップで買ったリヴァプール・マフラーを首にぐるぐるまきにして、スタジアム内の売店で買ったコーヒーを飲んで寒さに耐えつつ、試合開始を待つ。

7時過ぎ、ボルドーのウォームアップが始まる。ボルドーサポーターから声援。会場の1割にも満たない人間の数にしては結構がんばっている。だが、リヴァプールのウォームアップが始まるとその声援の何倍もの大声援。みんな自分の席を離れてピッチ間際の通路、つまり私たちの席の前に押しかけるので、私たちからは前がなにも見えない状態に。人と人の間からすぐ間近にジェラード、クラウチが見える。みんな大騒ぎである。写真を撮りまくっている。いい年をしたおじちゃん、おばちゃん、じいちゃん、ばあちゃんがみんながみんなガキのようにニコニコしている。これがフットボール文化なのだろう。日本のJリーグの試合に、じいちゃん、ばあちゃんがカメラ片手にやってくるようになる日はいつのことだろう。

ウォーミングアップも終わり、チャンピオンズ・リーグ・アンセムが流れると、選手入場。どうもアンフィールドは音響装置が最新ではないらしく、日本のスタジアムのような大音量で音が流れない。(Jリーグ試合開始直前には大概大音量ハードロックなどが流れるが、そのようなものは最初から最後までまったく流れなかったし、大きなディスプレイもないから日本のようにプレーバックなどは一切流れない。)拍子抜けだが、センター・サークルのチャンピオンズ・リーグ・マークを子供たちは一生懸命振っている。選手が整列して、ペナントを交換して、さあ試合開始だ。

 アンフィールド・スタジアム  リヴァプール・フラッグ 
 リヴァプール・スターティングメンバー

ゲーム

リヴァプール先発は(上写真左から)ジェラード(MF右)、リーセ(左SB)、カイト(FW)、キャラガー(CB)、(顔が写っていない)フィナン(SB右)、クラウチ(FW)、ヒーピア(CB) 、シャビ・アロンソ(MF)、シソコ(MF)、レイナ(GK)、そして(写真に写っていない)ルイス・ガルシア(MF左)。クラウチ、カイトを2トップにした4-4-2。ボルドーは・・・省略。

試合開始。本当にゲームの流れを見るなら言うまでもなくスタンド中段あたりでないといけない。最前列ではゲームの全体を見渡せない。しかし、そんなことはどうでもよかった。目の前をワールドクラスのプレイヤーが全速力で走り回っている。特に、ルイス・ガルシア、リーセは目の前である。レガースとレガースがぶつかり合う音がする、スパイクが芝生を削る音がする、ボールをドリブルする音がする、選手同士が指示しあう声が聞こえる、削られて倒された選手のうめき声がする、しかも背後からは大声援が降り注いでくる・・・まさに興奮ものである。興奮しながらも頭の中で、なんでこんな高速のパス回しがスパスパつながる?、なんでこんなロングパスが全速で走るプレイヤーにドンピシャであう?、やっぱJリーグとはレベルが違いすぎるよなあ、ほとんど世界選抜だもんなぁとか考えていると、ジェラードの右からのロングパスをルイス・ガルシアがこれをゴール左からダイレクトではたき、あっけなくリヴァプが先制。とんでもない騒ぎ。みんな立ち上がって訳の分からないことを絶叫している。隣のオヤジが私に向かって英語で何か叫ぶ。・・・そうこうしているうちにあっという間に前半終了。

寒いのでスタンド内に避難しているとハーフタイム終了。

後半開始。今度はジェラードが目の前である。うーん、信じられない気分だ。で、試合は、後半開始直後10分ほどはボルドーが攻勢。初めてのシュートらしいシュートがレイナへ飛ぶ。この時間帯が過ぎやや膠着状況になった20分頃、ピッチの私の座る場所から最も遠い位置で何かしら両チーム選手がもめている。スタンドも騒然。どうやら何かファウルがあったらしい。しかし、あまりに遠すぎて何も分からない。隣のオヤジが私に向かって「What's happened?」と叫ぶが、私にも分からず首をかしげる仕草をするしかない。(あとでTVで見たら、リーセがファウルを受け大流血していた。)そうしている内に、ボルドーの選手にレッドカード。大歓声。これでボルドーは10人。ここでリヴァプは大幅なポジション・チェンジをしてジェラードがトップ下に入り、実質2トップ1シャドーに。その直後、まさにこのポジション・チェンジの狙い通り、ジェラードが(シャビ・アロンソに変わって入っていた)ゼンデンの裏へのスルーパスに反応して飛び出し、これをゴールに流し込む。再び大歓声。ジェラード様、決めるところできっちり決める、まさに千両役者ですなあ。この時点でほぼ勝負あり。その10分後に、再びルイス・ガルシアがだめ押しの1点を入れて、3-0でリヴァプの完勝。めでたしめでたし、リヴァプ・ファンはニコニコ顔で家路に着くのであった。

 赤いユニフォーム左からジェラード、ルイス・ガルシアクラウチ、カイト
 2m前でプレーするジェラード

(続)