Man. United − Barcelona 2nd leg

Semi-finals - 29 April 2008 20:45 (CET) - Old Trafford - Manchester

Man. United 1 - 0 Barcelona


バルセロナは負けるべくして負けた。残念でも何でもない。実力通りだ。1st legのゲームを見たとき、バルサの攻撃力ではオールドトラフォードでのマンUのディフェンスを破れないだろうと思ったが、まさにその通りになった。

・2006年バルサチャンピオンズリーグで優勝したのはひとえにロナウジーニョの天才がピークにあったからこそだ。以前言ったことだが、バルサのパフォーマンスはロナウジーニョの能力に大きく依存するものだったと思う(http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/searchdiary?of=1&word=%2a%5bWC%5d)。だから、ロナウジーニョのパフォーマンスが低下すると共にバルサのパフォーマンスも低下してしまった。

・この試合、エトーのパフォーマンスがとりわけ悪かった。あるいは、エトーと周囲の人間との連携が悪かった。エトーは孤立する場面が多く、あるいはパスにあと一歩、あと半歩届かないという場面が非常に多かった。バルサのゲームを常時チェックしていないので何とも言えないが、結局のところエトーも‘ロナウジーニョ不在後遺症’といったところなのではないか?メッシは確かに両チームで並ぶ者がない技術を持っていることはよく分かったが、まだエトーを含むバルサの前線はメッシとのコンビネーションを確立できていない印象を受けた。

・しかし、惜しまれるのは、解説の風間も言っていた通り、後半15分イニエスタを下げたことだ。これによってバルサは中盤の構成力も前線の圧力も大幅に低下してしまった。まず代えるべきはエトーだろうに。しかし、考えてみると、バルサにはエトーのサブがいない。アンリやボージャンはCFタイプではないし、グジョンセンでは役不足。つらいところだ。イニエスタ→アンリ、エトーボージャン、トゥーレ→グジョンセンという交代はいずれも「何かなぁ」の感じをぬぐえないが、それというのもやはりロナウジーニョが抜けたあとのチームコンセプトが定まっておらず、「単に上手いプレイヤーはそれなりにいる」の状態にバルサが陥っている証拠にも思えた。

・これに対して、マンU、というかファーガソンの凄いところは、チームのパフォーマンスが特定の人間に大きく依存していないところである。このゲーム、ルーニーを欠き、しかもロナウドザンブロッタに完全に押さえ込まれてしまうが、相対的にフリーになったテベス、ナニ、パクがからんでいつの間にかペナルティエリア内に侵入し決定機を作ってしまう。ボールの支配率は6-4でバルサだったが、決定機はマンUの方が多かったのではないか。いわば前線のエース二人を欠きながらも、バルサ相手にそれなりに攻撃を組み立てられるチームというのもなかなか凄いと思う。(面白いのは、ロナウドに貼り付いていたザンブロッタロナウドから取ったボールをスコールズにプレゼントパスして、得点が入ったこと。つい最近のプレミアリーグ、マンUvsチェルシー戦で、チェルシーリカルド・カルヴァーリョルーニーにプレゼントパスをして得点するのを思い出してしまった。マンUの前線からのプレスが効いているからだが、連続するとマンUへのプレゼントパスは流行か?とか思ってしまう。)

ファーガソンは特定個人に依存しないチーム作りが非常に上手い――恐らくベッカムを放出したのも、ファン-ニステルローイを放出したのもこのためなのだろう――が、同時に相手チームにあわせたフォーメーションを組むのがこれまた非常に上手い。相手チームの実力、特性、そして手持ちの選手のコンディションを見極めた上で、相手チームを‘若干’上回る能力を持つチームフォーメーションを作り出す。1シーズンは長い。いつもベストで戦うことは出来ないし、相手によってはその必要もない。上手くローテーションを組んで選手を休ませながら、チームを回してゆく。そして、それが出来るように選手補強を行ってゆく。ファーガソンの家父長的で(日本語の)「監督」然とした物言いはつくづく嫌いなのだが、こういうところは大したものだと思う。

・このゲーム、1st legのゲームと同様、ファーガソンはボール支配率ではバルサに敵わないことは予想していたと思う。前試合と同様、マンUは徹底的に守備重視のカウンター狙いだった。試合開始直後にマンUはすでに引いて守っていた。ザンブロッタスコールズへのプレゼントパスで前半早い時間帯に得点が入ったので、この傾向はその後とりわけ強くなった。スコールズも(普段は責め上がりが得意な)キャリックも中盤に張り付いたまま。SBのエブラもハーグリーブスもせいぜい中盤に出てくる程度。攻撃はロナウド、ナニ、テベス、パクにおまかせ。これ程慎重なマンUはなかなか見られない。

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・こういう試合で、パクの役割は重要だった。イングランドではネット上で(普通のフットボールファンだったら誰でも感じる)パク不要論がやはり語られており、これに応じる形で評論家がパク必要論をわざわざ展開していたりするのだが、この試合を見てファーガソンにとってパクがどのような存在であるか分かった気がした。

・パクは(マンUの水準で言えば)技術がない。攻撃の技術も守備の技術もない。得点は出来ないし、攻撃時ボールを前に運ぶ(ドリブルする、あるいは気の利いたスルーパスを出す)ことも出来ない。だから、攻撃時、チームメイトはパクに積極的にパスを出さない。無論、パクにパスが絶対出ないというわけではない。だが、攻撃時、パクがどのようにボールを受け、どのようにパスを出しているかを見ていると、パクはひたすらゴールを背負ってボールを受け、ゴールと反対の方向にパスを出していることに気づく。つまり、パクはいわゆる「クサビ」に徹しているのである。「FWが前線でクサビをするならともかく、ウィンガーが中盤でクサビやってちゃしょうがないだろ。前にボールを運ばないウィンガーってウィンガーって言えるか?」とか思うが、これがパクに課された役目なのだろう。守備でもゴールを背負って一対一で相手FWと対峙し、これを止めるなどという真似はできない。パクには相手FWに負けない速度があるわけでもない。スコールズでさえ簡単に抜きさるメッシにとって、パクはほとんど目の前に立つ若干動く障害物以上のものではなかった。

・だが、パクには(ポジションがかぶる若いナニにはない)運動量がある。この試合、マンUの中でパクほど最前線と最終ラインとの間を動き回っていた人間はいないだろう。最初から最後まで上下動の繰り返しである。大したものだと思った(中村俊介にパクの走力があればとつくづく思う)。‘決定的な仕事はしなくてもいいから’というより‘ボールに触れなくていいから’前線あるいは最終ラインにあと一枚いて欲しいというとき、パクは敵のディフェンスの一枚を引きつける役目を果たし、相手攻撃陣の速度を若干遅くする役目を果たす。ひたすら‘文字通り’単純な中盤での汗かき役である。

フットボールというのは見方によれば空間の争奪戦だから、パクのような選手がいれば都合がいいということは分かる。しかし、こんな役目、誰がやりたいと思うだろうか?あるいは、監督とは言え、誰がこんな役目を選手にやれと言えるだろうか?極端に言えば、ボールに触れることなく、ひたすら走り回るだけの役目である。普通、こんな役目、選手はこなせないのではないか?監督がこんな役目、選手に要求できないのではないか?中田英寿だったら、監督がやれと言っても絶対やらないだろう。というか、一般的にそれなりのキャリアとプライドを持った選手なら誰もこんな役目、受け入れないのではないか?かつてトルシエは日本代表監督の時、徹底的に「未開人」に対する「文明人」の態度を取ったが、ファーガソンのパクの起用法はこれを思い出させる。

・パクは昔インタビューの中で、「中田(英)は監督と意見のぶつけ合いをしているが、監督とはどのような関係を?」といった質問に対して、「自分はまず監督の要求に応えることを第一に考えている」という旨の発言をしていたが、恐らくこれはパクの本音なのだろうということが、マンUでのプレーを見るとよく分かる。普通、口でこうは言ってもこれ程の役目を実行できないものだ。恐らく、パクのこの従順さを家父長的なファーガソンはとても気に入っているに違いない。

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・これでチャンピオンズリーグ決勝は、マンUチェルシー

・つい最近、両チームはプレミアで対戦し、チェルシーが勝っている。だが、このときはファーガソンは勝てなくてもいい、ドローが望ましいが最悪負けてもいいと思っていたと思う。どうしても勝ちたければロナウドを先発から外すはずがない。先発にスコールズハーグリーブスもいなかった。チャンピオンズリーグのために戦力を温存したのは明らか。負けてもチェルシーには勝ち点で並ばれるだけ。得失点差では圧倒的に有利。そして、残り二戦はプレミア下位チームとの対戦。こっちを確実に勝てばタイトルは取れるとの計算があったに違いない。ヴイディッチの負傷退場というアクシデントも重なって、チェルシーに負けた訳だが、敗北それ自体はファーガソンの想定内だろう。つい最近、ファーガソンは「チェルシーは我々に勝って自信をつけただろう」などと妙な発言をしていたが、これは間違いなく余裕の発言だろう(つくづく厭味なオヤジだ)。

・これに対して負けられないチェルシーは最強布陣だった。ランパードはいなかったが、むしろチェルシーにとっては、ランパードはいなくてよかった。はっきり言って、ランパードバラックが同時にピッチに立つ必要はない。二人はともに攻撃的MFでキャラ、ポジションがかぶっている。(イングランド代表では、ランパードとジェラードがかぶっているが、それと同じ。)どちらかいればよい。強豪相手の時は、とりわけ、バラックランパードに2ボランチの組み合わせの方がいいに決まっている。(だが、まさか決勝でどちらかを先発から外すなどという真似は(ファーガソンならぬ)グラントにはできるはずもないだろうから、守備力が落ちても1ボランチにせざるを得ないということが予想される。)

・つまり、プレミアでの勝敗は当てにならない。マンUよりチェルシーの方が間違いなく選手個人の能力は上だが、ファーガソンのチーム戦術はチェルシーのそれを上回っている。決勝はなかなか見物だ。

・ただ、それでも、チェルシーの方が若干有利な気がしないでもない。実力は互角なのだろうが、モチベーションはチェルシーの方が絶対上だろうから。まず、プレミアのタイトルはほぼマンUのものになっている。チェルシーは負ければ無冠となってしまう。そして何より、決勝の地がモスクワであること。油まみれびっち(アブラモビッチ)は何よりここで勝利したいだろう。選手への特別ボーナスなんてのは当然ありだろうが、審判の買収なんてのもありだろう。チャンピオンズリーグのタイトルを取るために、何百億も投資してきたのだ。出し惜しみなどしないだろう。5億ほどを買収工作に使ったって、バラックの年俸の3分の1でしかない。微妙なタックルに1回PKの笛を吹けば生涯賃金を超える金になるという誘惑に勝てる人間が果たしているか?

優勝予想;チェルシー