某先生

その先生が学生に人気がないことは、他の教員も学生も学内の誰もが知っている周知の事実である。数年前には先生のゼミを希望する学生が2人しかおらずゼミが成立しなかった。

なぜそんなに人気がないのか。

1;先生の専門が理論社会学であること。理論は冬、真冬である。理論的指向性は氷河期のマンモス状態である。死に絶えている。

80年代、社会学は法学、経済学、哲学などの不人気を尻目に急速に文系学生の人気を獲得したが、それは社会学が何でもありのアバウトな、ぬるい学問だと思われていたからだ(ろう)。しかし、恐らく、最早その社会学ですら今の学生からすると、堅苦しい学問になってしまった。今や、何とか情報学部とか何とか国際学部とか環境何とか学部とかメディア何とか学部なんて、訳の分からないアバウト学部が大流行である。(ある大学には「国際日本学部」なる学部がある。「国際かぁ日本かぁ、どっちやねんッ!! 」てツッコミを入れたい気がする。)

学生は学問の論理性、体系性などにさらさら興味はない。「面白そうな」話題を虫食い的に収集するだけ。「広く浅く」――これが現代的な勉強というものなのだろう。社会学はかつてこの流れの中で人気を博したが、今この流れのさらなる展開の中で解体しつつある。

この世の中の趨勢にあわせて、集客(学生集め)のために、先生の大学も、カリキュラムを数年おきに修正しこの手の講義を大量に増やしており(そしてそれに反比例して先生の持っていた理論系コマは削減されてしまった)、そしてそうした講義をしている他の先生は大人気である。そして、その人気を背景にそうした他の先生は発言力を増大させ、ますますそうした講義を増やしている。先生は学内で立場がない。

2;先生は学生指導が厳しい。というより、根が真面目なのできっちり学生を指導する。学生から聞くところでは、学生のレポートなどに対しては詳細なコメントを返しているらしい。世の中には、学生にレポートを書かせるだけで何のフォオローもしない先生がざらにいるのに、偉いとしか言いようがないと思う。

しかも先生の提出するテーマは難しい。レポートを書くのも学生からすると大変である。

というので、必然的に学生は先生を敬遠する。同じ大学同じ学部の中には、「1年かけてビデオ作品を作ってみよう!」とか「ファッションについて楽しく考えてみよう!」なんてぬるいことやってる講義がたくさんある。大方の学生としてはそちらを選ぶだろうというのは予想がつく。

先生としてはきっちり指導をしているだけなのだが、状況的に先生は敬遠されてしまう。ところが、ぬるいことをして学生を集め発言力を得ている他の先生たちは、先生が楽をしたくて意図的に厳しい授業をして、学生が自分の授業に来ないようにしていると考えている。先生は学内で立場がない。


がんばって下さい、先生。