England 5:1 Croatia

for 2010WC
Europe - Group 6
London - Wembley 09 September 2009


ベンチに座るベッカム――この何度も大写しになった映像こそ、今のイングランド代表を集約する表象である。

ベッカムは最近繰り返しカペッロに対する忠誠を語り、チームスピリットを語っている(らしい)。例えば;

LA Galaxy star David Beckham says Fabio Capello has transformed the mentality of England's players."He has changed the mentality of the players," said Beckham. "The way the players prepare themselves, the way we spend the week together, is very serious and very concentrated."It is working because we are not just winning games. We are together as a team.

恐らく、現在のイングランドのキーワードは「献身(自己犠牲)」といったものであるに違いない。

カペッロは大したものだと思う。カペッロは、ある意味ではもはや招集する必要のないベッカムをベンチに座らせ、上のような言葉を語らせるために、つまりは献身というチームコンセプトを具現化させるために招集しているのだから。

イングランド代表はここ数年ビッグネームが並ぶにも関わらず結果が出すことができなかった(ドイツWC、信じがたいことに予選落ちを喫したEURO2008)が、これはひとえに各プレイヤーがプレミア各チームで王様だからだ(http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20060611/1150025697http://d.hatena.ne.jp/Zephyrus/20060616/1150421706)。王様集団に献身の精神を植え付けること――日本人などからしたら簡単そうだが、イングランドは延々とこれに失敗し続けてきたわけだ。カペッロはこれに成功した。これは、カペッロが世代交代(ベッカムが明らかに衰えた)の時期に(偶然に)コーチとなったというだけのことではなく、間違いなくその手腕による。それは、ベッカムを(献身という言葉のアイコンとして)利用したというだけではない。恐らく、それは一番、中盤のランパードとジェラードの起用法に具現化されている。

ランパードとジェラードはクラブで(チェルシーリヴァプールで)キャラがかぶっている。2人ともトップ下の攻撃的CH、つまりチームの王様!だから、イングランドメディアはこの2人は共存できるのかと延々と議論してきたわけだが、カペッロはこの2人をフォーメーションの中でともに犠牲(献身)を強いる形で共存させた。カペッロイングランドのフォーメーションは4-4-2。ランパードはバリーと共にCH。この2人はバイタルエリアの守備に責任を持つボランチの役割をこなさねばならない。ランパードからすればこれは本来の役割ではないが、その運動量を生かしてボランチ位置からゴール前まで出ることは無論許可されている。守備に献身することが攻撃の条件である。他方、ジェラードは左SH。これもジェラードの本来の位置ではない(ジェラードは自分はトップ下で一番能力を出せると繰り返し言っている)。左SBのA・コールと共に左の守備に責任を持つが、中に絞って攻撃に参加することは無論できる。ここでも守備が攻撃の条件である。つまり、カペッロランパードにもジェラードにも本来の位置を与えなかった。カペッロは、それぞれ犠牲を強いながら、にも関わらずその犠牲の上に自分の本来の能力を発揮できる可能性を与えたのである。自己犠牲しつつ攻撃に参加するランパードとジェラードを見るのは、恐らくイングランドファンにとっては涙ものの競演だったに違いない(私も感慨深かった)。この試合ではレノンの活躍が目立ったが、5点のうち4点がこの2人からのものというのはカペッロからしたら、自画自賛したいところだったに違いない。スター選手に自己犠牲を強いることが出来るのは、カペッロの戦術眼は無論カリスマあってのものなのだろう。本当に大したものである。



なお、右SHのレノンの活躍が目立ったが、このポジションはJ・コール、ウォルコットとタレントが揃っている。それにバリーの代わりにはハーグリーブスもいる。SBにはブラウン、CBにはファーディナンドは無論、キャラガーもいる。プレミアオールスター軍団が献身の旗の下にどこまで進軍できるのか、とても興味深い。どこかの国と違い、ベスト4以上は冗談抜きに可能だろう。