概念を失うということ

認知症の彼女は「今日の日付が分かりますか?」と尋ねられて、「分かりません」と即答した。彼女の後ろの壁にはカレンダーがあるにも関わらず。

彼女は単に、今日が何月何日かということが分からないのではない。「日付」とは「もし分からなければ、カレンダーを見れば、確認できるものだ」ということ、いわば日付の検証方法が分からないのだ。

彼女は宅急便の不在配達通知があるので確認して欲しいとヘルパーに懇願する。ヘルパーが見ると、その不在配達通知には2年も前の日付が大書してある。

彼女は不在配達通知というものが何か理解していないわけではない。そして、その表面に大書してある日付が目に入らないわけでもない。彼女は、その日付がその不在配達通知が投函された時間を示すために使用されているということ、いわば日付の使用方法が分からないのだ。



認知症は、概念を失うということがいかなる事態であるのか、教えてくれる。