概念分析の基礎(案)

1.
概念分析はある言葉(概念)xの客観的に妥当な定義の解明ではなく、用法の解明を目指す。概念分析のトピックは、人々はxをいかに使用しているのか、である。xの配備、分散、接続など――これらが概念分析の最終的な主張となる。

1.1.
社会学は、ある言葉xに関する操作的な定義を与えることから出発し、資料を集積し、客観的に妥当な定義を与えることを目指す。

1.2.
概念分析は、社会学に対する代替肢として、ある言葉xの用法を解明することを目指す。
(cf;ガーフィンケル+サックスの「指標性修復」の問題化、サックスのデュルケム『自殺論』(における自殺の操作的定義付与)の問題化、ガーフィンケルの「解釈のドキュメンタリー的方法」の問題化など)

1.2.1.
概念分析は、xが表象representする事実を解明、発見することを目指さない。




2.
概念分析にとって、x(およびxに関連する言葉a、b、cなど)に関する日常的知識は、その用法解明のためのリソースである。

2.1.
概念分析は、現象領域において多くの事柄を常識的知識として、それゆえ社会学的には未解明ではあっても、リソースとして利用し、限定されたトピックの解明を目指す。

2.2.
概念分析のかかる限定性は、概念分析の論理的欠陥ではない。これはあくまで手続き的な問題である。
(cf;クルター)

2.3.
xに関するごく一般的な説明(背景的説明を含む)を与えることは、概念分析において、研究者の自由裁量に属する。



3.
xが専門的、歴史的な言葉であり、その日常的知識が用法解明のリソースとして不十分である場合、概念分析はxの用法解明のプロセスにおいて、そのリソースとして、x(およびxに関連する言葉a、b、cなど)に関する専門的、歴史的知識を解明し、その知識を与える。

3.1.
とは言え、かかる概念分析が目指すxの用法の解明とリソースであるxの定義の解明は、トピックとリソースとして、不可分であるが、用法の解明が主たる目標である。

3.1.1.
かかる概念分析は、xの定義の解明を含むとは言え、それは主たる目標ではなく、よってxの定義に関する既存の議論を流用することがあり得る。

3.1.2.
かかる概念分析は、xの用法の解明の結果アウトプットからして、xの定義に関する既存の議論を修正することがあり得るが、これは主たる目標ではなく、あくまで副次的効果に過ぎない。

3.2.
かかる概念分析においては、xの定義の解明、xの用法の解明は相互依存的であり、その識別つまりリソースとトピックの識別は困難である。

3.2.1.
かかる概念分析のアウトプットは、その読み手からすると、単にある専門性、歴史性を有するxに関わる総合的な教示と何ら変わらない。

3.2.2.
かかる概念分析は読み手にxに関する適切な教示を与えることを目指す。