ノーグレン,ティアナ『中絶と避妊の政治学 戦後日本のリプロダクション政策』

岩本監訳、塚原、日比野、猪瀬訳
青木出版、2008年

最近翻訳が続いている、流行の(?)アメリカのジャパン・スタディーズの翻訳。

<国家vs社会の二元論(国家の抑圧的政策に抵抗する民間)>を排して、<多元主義(国家アクター、諸民間アクター間の闘争から産出される政策)>を用いて、日本の生殖政策(避妊、中絶政策)の特質――なぜ日本は中絶においては先進的(ex.優生保護法)であったのに、避妊においては保守的(ex.ピル)なのか――を解明しようという意欲作。「国家権力の抑圧、横暴を告発し、権利を求め闘うぞぉ!」という論調が主流の日本国内の議論と違い、多元主義を標榜するこの本はかなり異彩を放っている。

多元主義的説明が上手くいっているかと言えばかなり疑問を感じざるを得ない。その理由は、二元論の方が説明図式として優れているからではなく、二元論も多元主義もそれ自体が活動の中に投入される資源だからなのだろう。

ただ、それでも(特に5章以下)「なるほど」と考えさせられる部分も多々あり、結構面白く読めた。例えば、私は、なぜ、現代日本では多くのヨーロッパ諸国では忌避される少子化対策が堂々と政策課題とされ、しかも多くのフェミニストがこれを問題視するどころか支持するのか、疑問でしょうがなかったのだが、これなどノーグレンに言わせれば「二元論的思考のため」ということになるのだろう。しかし、どういう翻訳事情があったのか知らないが、訳者はいくらこの手のノーグレンの主張が気にくわなくても、わざわざ訳注をつけてこれに反論することもなかろうにと思う。